(1)浪花節データベースの基礎的な演目・演者名の入力を一通り終えた。今後検索や語彙の統一など細かい部分についての検討が可能になった。 (2)「漫談」についての資料収集を進めた結果、1920年代後半に生成した経緯についての研究に進展がみられた。漫談はこれまで活動写真の弁士との関係において言及されてきたが、漫談を考える際に重要なのは、同時代の落語の状況との関係を考察すべきということがわかってきた。それは、演者自身の身体性をもとに、私的・現在的な経験を語る芸であるという点が重要であることを意味している。演者/客の関係を構築するための現代的な技術のバリエーションが漫談を媒介として錬磨されていく。 (3)明治期大阪で出版された浪花節の速記本の収集を進めた。明治30年代には、物語を「講談」に類比した方法で浪花節は活字化されていった。明治30年代中頃における初期の速記本では、音声の活字化への考慮はなく、実際の口演に近づける方向性が基調となるのは明治40年代以降である。吉田奈良丸に関するデータ収集から見えてきたのは、SPレコード、速記本、一節集そして実際の口演という重層的な受容回路である。 (4)また、近代日本の語り芸研究会を2回開催した(1回は国際日本学研究会と共催)。実況、アナウンスといった現代的な発話形式を含み込んだ全体像の研究に踏み込んで、近代・現代のプロフェッショナルな語りの全体像(配置関係)を論じるネットワークの拡張を進めた。
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