平成21年度は、メラネシアのフランス海外領土であるニューカレドニアにおいて、先住民カナクの文化活性化活動や将来的な政治的地位に関する住民運動などについて調査を行った。数年後に独立か、現状の維持かをめぐる住民投票が予定されている。これまでも、1990年代、2004年と住民投票が計画されたが、いずれも延期されてきた。この背景には、人口22万人のうちフランス系などの白人入植者が社会経済的に主流を占め「植民地的状況」の持続を望むのに対し、人口の上では多数を占める先住民は「独立」による地位改善を求める組織的運動を展開してきたからである。先住民は、1980年代から政治的独立だけでなく、自らの文化・芸術的活動の高揚をとおしてアイデンティティの確立を強化する動きを強めている。1997年にはその運動のリーダーの名前にちなんだ「チバウ文化センター」を創設して文化活動の活性化を推進してきている。しかし、フランス植民地政府の先住民の生活水準向上政策により、先住民の中には政治的、文化的な自立よりは、現状の地位の維持を望む声が多くなっているという意見も聞かれる。先住民カナクは農村部に生活の基盤をおいており、近代的な住居や生活インフラを導入しつつあるが、政治的には首長制に基づく社会体制を維持している。 本年度調査を実施する予定であったミクロネシアでの調査は実現できなかった。それに代わって、ミクロネシアで1929年から民族学的調査に従事した芸術家土方久功の日記の翻刻と出版を行った。
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