本研究は、フィールド・ワークで入手したデータ資料と一次史料に基づいて、中国沿海部ムスリム社会の構造的特徴、宗教信仰、宗族意識、倫理感、公共領域に関する意識、およびその形成と中国ムスリムが経験した地域間移動、社会移動との関係について分析し、以下の結論に達した。(1)、中国沿海部ムスリムの「漢化」のプロセスは、農業化、現地化、宗族化と「科挙化」という四つの段階から構成され、宗族化はもっとも重要な役割を果たした。(2)、現代における民族的、宗教的覚醒は中国の改革開放政策によって起こった。(3)、経済発展の基礎は安定した社会環境であり、それを実現するために宗族、民族を乗り越えるような「公共性」を作り出すことが大切である。(4)より多くの「公共性」を作り出すために「公共空間」の存在が必要。(5)「公共空間」についての検証は、地域社会または民族社会の本質を検証する上で有効な手法である。
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