マイクロファイナンス(MF)に関する研究課題は、昨年より中東・北アフリカ諸国の多くで民主化動向の活発化した、こうした民主化への動きや革命後の現状をも踏まえ、臨機応変に部分的に修正しつつ、調査研究を継続した。実際の現地調査は、民主化革命から一年が過ぎたチュニジアと、「アラブの春」の激動なかで極めて政治経済的に安定しているアラブ首長国連邦にて、特に後者では経済発展と政治的安定がこうした状況下でなぜ可能となっているのかを調査した。 チュニジアでは、昨年10月の憲法制定議会選挙を控えた夏期に調査を実施し、革命後、観光産業が大打撃を受け経済状況が悪化するなか、MFの融資機能は極めて重要でありながら、国家経済の悪化のなかではMF機関自体も経営悪化を余儀なくされていた。また革命後は官民で大幅な人事刷新があり、政治的不安性さが経済社会に及ぼす影響の甚大さを再確認するに至った。これらの民主化と関連させた調査内容は2本の報告論文として発表した。またアラブ首長国連邦については、住民の約7割が外国人労働者で、その待遇も多様で貧富の格差が著しいにも関わらず、政治経済的には安定しており、世界金融危機後のドバイショックからも早々に立ち直り、目下、UNDPの人間開発指標でもその順位を上昇させている。その背景には国家の統治者、とりわけ初代大統領の国家ヴィジョンと卓越した政治手腕があると考えられ、その模範的ガバナンスは注目に値するものがある。この調査報告の論文は、今年度中に昭和堂からの縄田浩志編の著書に掲載の予定である。また開発と女性やジェンダー・エンパワーメントの研究課題との関連では、Z.S.サルヒーの編著本を共訳し、2012年1月に『中東北アフリカにおけるジェンダー:イスラーム社会のダイナミズムと多様性』と題し、明石書店から出版した。現地の政情不安定や治安の悪化から研究テーマや調査地を多少変更したが、研究成果へと結びつけることは充分できたと考えている。
|