1.2009年9月に2週間、ホノルル(米国ハワイ州)でサモア人を対象に行い、2010年2月~3月に3週間の調査を、ホノルル経由にてアメリカ領サモアで行った。ホノルルでの調査は過去に経験があるので、概ねスムーズに行えるものと思っていたが、実際には人々はかなり移動していたり、知人が亡くなっていたりして、予想していたよりは成果が限られていた。儀礼交換に関して、サモア独立国出身の人々の問では、独立国政府が新たに設けたルールが働いて、以前ほどに派手な交換は行われなくなったとの声が聞かれた一方で、アメリカ領サモア出身の人々の問では、そうした規制は働かず、相変わらず派手な交換が行われているということがわかった。 2.アメリカ領サモアに関しても、派手な交換は相変わらずであった。地元テレビ局の協力を得て、現地で行われた大きな儀礼交換のビデオコピーを入手した。現地の人々の儀礼交換に対する意見をインタヴューで調べた。一方で、伝統文化保護の立場から、女性の作成する儀礼財を作る技術を保存しようという運動が展開されていて、その運動の現況に関する聞き取りと参与観察を行った。また、アメリカ領サモアでの大きな儀礼交換が、多くの外国入労働者のスポンサーとなることで、実施されているという実情も把握することができた。グローバル・サモア人世界の中の経済階層の差が明らかに生じているといえる。 3.一方、ニュージーランドと違って、サモア人アーティストはアメリカ領サモアにもハワイにもあまり目立つ存在ではない。その中でアメリカ領サモアで1名、ハワイで1名のインタヴューを行うことに成功した。しかし自らのアイデンティティが確立しているために、概ねアーティストは儀礼交換には批判的である。これら二人は明確かつ意識的にこの制度を批判し、自らは荷担しないことを明言した。互酬性の外側でサモア人アイデンティティの主張が始まっていることを把握した。
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