極小島嶼国であるサモア独立国は、人口約17万人、隣のアメリカ領サモアは人口約6万人、両方を併せて23万人の本国人口に対して、主として環太平洋先進国に移住しているサモア人の人口はそれを凌駕する。これらすべてを会わせたグローバル・サモア人世界は、さまざま差異をはらみつつ、それぞれがネットワークで結ばれて「想像の共同体」を形成している。一般のサモア人にとって、サモアらしさとは、首長制(ファアマタイ)であり、それを支えるさまざまな慣習、そしてなかんずく重要なのは儀礼交換である。儀礼交換に用いられる細編みゴザや、それの対価として現金を贈る行為は、サモア人らしさの象徴である。この本国でしか生産されないものに媒介されて海外移民から本国へと現金が流れていく道が形成されている。移民が伝統文化に回帰する限り、ヘゲモニーは本国の側が握っているといえる。細編みゴザの粗悪化に対処して、伝統的で緻密なゴザの作成に本国では身を入れ始めたのはあきらかに本国のヘゲモニー強化の動きであるといえる。一方で、主として海外で活躍する芸術家たちは、これら一般の人々とは違ったサモア人らしさを追究しているといってよい。彼らはその創作活動の中で、つねに芸術とは何か、人生とは何か、サモア人であるとはどういうことか、というアイデンティティの問題と向き合っており、芸術という自分の究極の課題があるために、儀礼交換には批判的な場合が多く、首長制にはあまり興味を持たない。本国のヘゲモニーからは滑り落ちているといえるかもしれない。新しいサモア人像、サモア人のアイデンティティの想像力は彼らの手に握られているといえるだろう。
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