研究概要 |
1.浪速錫器の概要についてはすでに事前調査を実施していたので、大阪における錫器製造業の歴史や実態、及び大阪錫器株式会社の製造工程についての補足調査を行なった。その結果、錫器は古くは神前用や上流階級用の酒器としてあり、近世以降に茶器や食器などに用途を広めたこと、その主産地は京都・大坂・江戸・鹿児島の4か所に限られていたことなどを解明し、製造技術の詳細な調査により、錫器特有の鋳造方法や錫挽き技術を明らかにした。以上の成果は紙面で発表した(吉田晶子「生活用具としての錫器」「大阪の錫器製造」『民具マンスリー』第42巻1号,2号)。さらに、錫器製造の特徴的な工程である錫挽きに使われるカンナ類について、職人一人が所有する総数約300点のすべてを実測して微妙に異なる形態の差異を検討した。また、博物館などに残されている浪速錫器及び薩摩錫器の製品の調査を行ない,両者の比較検討を行なった。2.仏具鋳物師長谷川亀右衛門家について,その所蔵用具すべての写真撮影を完了し,旧工房の作業空間の復元が可能なように,操業時の保管場所ごと道具類に整理番号を付した。その上で,主な用具の実測調査及び用具の使用方法の聞き取り調査を進めている。3.旧東足代村周辺の鉄瓶と茶湯釜の鋳造について,その技術を継承すると考えられる茶湯釜鋳造の個人工房の製造工程を調査した。また、大正期の金物屋の商品カタログを調査し,大阪の鉄瓶が関東でも販売されていたことを確認した。4.大阪府の寺社に遺存する江戸時代以前の鋳造製品のうち,梵鐘は天岸正男『大阪府鐘銘集』第一冊〜第九冊(1968-77年、私家版)に網羅されている。同書記載の梵鐘の中で,鋳物師名のわかる梵鐘約800点を抽出し、鋳物師名、鋳物師居住地、鋳造年、所蔵寺社名などをデータ入力した。
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