本研究は、多様な人々が集まり住民の転出入の移動率が高い都市において、家族や対面的な地縁関係をこえた、しかしそこで暮らす場所に根ざした住民のつながりや組織運営の可能性を、ロンドンのハマースミスでの実地調査にもとづいて探ることを目的とする。住民たちが、行政や地域内外の公営・民間諸団体の支援の動向を睨みつつ、住民のあいだにある経済的階層やエスニシティの確執をひそませ、時には異なる住民組織が連繋しながらどのように活動を展開していくのかをとらえる。2009年8月4日~9月10日に渡英し、ロンドン西部、ハマースミスにおいて地域調査を行った。1990年代以降、ジェントリフィケーションがすすむ調査地において、1999年に結成されミドルクラスの住民を中心として会員を増やしているブラッケンベリー・レジデンツ・アソシエーション(BRA)についての継続的な調査を行った。日本語で作成した調査報告書(昨年度の実績概要参照)を英訳し、現地で関係者に配布し、意見を伺いながら調査をすすめた。調査者の誤認を修正し、BRAの活動の展開(街路樹育成運動のロンドン市からの助成金獲得、他の住民組織との連携など)を知ることができた。報告書のなかで分析の参照枠として用いた「割れ窓理論」にBRAの関係者たちが好意的な関心を寄せることが印象深かった。調査地の住民のあいだの経済的階層意識や、住民活動の目的や地域コミュニティに求めるものの相違を考察するうえで、「割れ窓理論」にたいする住民からの反応は、ひとつのヒントになるのではないかと考えている。実地調査の成果をふまえて西川(2010)を発表した。
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