研究概要 |
第一に,1980年代以降、研究代表者が民俗誌的調査を継続的に行なってきた近畿地方の宮座の存在する村落における2000年以降の実態についてあらためて再調査を行なった。宮座は、村落における長老たちが氏神の神社をまつる組織であり、長老たちの社会的役割とそれを果たす責任感が長老たちの生きがいとなっている点が注目されるが、世代交代をへるなかでこの現在においても1980年代のころと変わらず長老組織を維持している村落が少なくないことが確認された。ただし、儀礼内容や執行日時、また衣裳や道具などに改変や簡略化がすすめられている事例も少なくない。伝統を維持し継承しようとする高齢者の世代と、それに対する負担感の大きな若者世代と、またその中間世代と、これら3つの世代間の、村落における対立、対話、妥協、協調という関係性について、伝承の維持と改変や簡略化の動態論的な分析が今後の大きな課題となった。とくに、大和高原地域の村落においては、時期的には2006~08年ころに大きく変化したことが確認されたが、その背景についても今後、分析を行なう。第二に,神戸市内在住の高齢者女性の場合について,家族構成の変化と本人の加齢とともにその日常生活や友人との交流がどのような変化してきているか,について聞き取り調査を継続している。加齢にともない、仕事(夫と子供のための家事労働から夫のための家事労働、夫と死別後は自分と家屋の維持のための家事労働など)と趣味(70歳台半ばでそれまでの刺繍や編物や旅行をやめて、読書やラジオ視聴などへ変化、園芸も規模を縮小など)の両方が変化していくケースが注目された。年齢とともに次々と選択を続けていくその柔軟な生き方が高齢者の生きがいの見出し方の上で有効であることを示す事例が多い。
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