過去2年間は主として博物館活動に関する研究を進めてきたが、本年度はこれまでの調査結果を踏まえ、博物館の活動と、その母体となっているコミュニティにみられる社会変化との関係に焦点を当てた研究をおこなった。現地調査は、平成22年11月から平成23年1月、および平成23年3月に、タイ国チェンマイ県とランプーン県でおこなった。これまでに明らかになったことは以下の三項目にまとめられる。 1、博物館の活動は、90年代以降、北タイ各地でみられる地域文化め復興運動と結びついて展開してきており、外部に地域文化を紹介するというよりは、地域社会内部で地域のアイデンティティや連帯を醸成することに主眼が置かれている。 2、地域住民がコミュニティ博物館の役割と可能性に以前より注目するようになった背景には、地域の急速な近代化と社会関係の希薄化がある。 3、地域社会だけでなく、タイ社会全体の大きな変化、とりわけタイ社会内部でのコミュニティの位置づけの変化、具体的には地域アイデンティティ意識の高揚と地域主導による開発モデルの展開が博物館活動の大きな推進力になっていることが明らかになった。さらにいえば、タイのコミュニティ博物館は、仏教寺院に附置され、タイで独自に発展してきたという歴史をもつが、近年の展開は、いくつかの官公庁による文化行政の刺激のもとで展開しているということも明らかになった。 今後は、過去3年間にわたる現地調査で集めたデータの分析を進めるとともに、これまでに現地で集めた文献資料の分析を継続しておこない、その結果に基づいて成果のとりまとめをおこなう予定である。
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