プロジェクト2年目の平成21年度には、イギリス、インドにおいて各1回の現地調査を行った。イギリス(平成21年9月)では、ロンドン市内および周辺地域にある南インド系音楽・舞踊学校を視察し、主宰者、教師、生徒らにインタビューを行った。特にロンドン郊外サリーにあるに音楽学校「カルナティカ」や音楽支援団体「バーラティヤ・ヴィッディヤ・バヴァン」を拠点として、イギリスにおける南インド古典音楽の上演・教授の実態、南アジア系コミュニティとの関係などを調査した。その過程で、スリランカ出身のタミル人コミュニティの存在が、イギリスにおけるインド音楽・舞踊の実践にとって極めて重要である点が明らかになった。彼らにとって、タミル文化の維持・継承は重要課題の一つであり、特に音楽・舞踊はその中心的活動であると認識されている。 インド(平成21年12月)では、南インド音楽・舞踊の中心地とされるチェンナイにおいて、現地で毎年12月に開催される音楽・舞踊祭に参加し、在外インド人(NRI)演奏家の活動の実態を調査した。彼らの演奏の形態や内容、およびそれに対する在インド演奏家、音楽関係者たちの評価について考察した。また、インターネットを用いた音楽の教授の実態や、NRIのために開発された音楽教材についても予備的な調査を行った。以上の調査から、NRIコミュニティは豊かな経済力を背景にして、「母国」の音楽文化への発言力を増大させている点、南インド音楽はグローバルな人的、経済的ネットワークに不可分に組み込まれている点が明らかになった。
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