本年度は研究計画にしたがい、スペインにおける野外調査を実施した。具体的には、イベリコ豚を用いた代表的な加工食品であるハム製造に関わる、企業、品質管理協会、ブタの放牧農家、地域の博物館関係者に対する聞き取り調査ならびにブタ飼養の観察調査を行った。調査地は前年度のギフエロ地域と比較対象する基礎的なデータを収集することをねらいとし、エストレマドゥーラ地域を中心にした調査を行った。 エストレマドゥーラ地域のイベリコ豚のブランド化の過程はギフエロ地域もしくはフエルバ地域におけるものとは異なる要素を有することが現地の調査によって示唆された。すなわち、ギフエロやフエルバでは資本力がある比較的大きなハム製造業者の企業化が一部で進んだ結果、品質管理協会の認定を受けない自社ブランドの製品を流通させているケースが見られたのに対し、エストレマドゥーラは基本的に品質管理協会と製造業者との関係が保たれた製品生産ならびに販売が行われていた。これは、製品の流通という観点から考えた場合には必ずしもエストレマドゥーラ地域の産出する製品が国内ならびに国外における競争力を十分には持ちえていないことにもつながっている可能性がある。すなわち、大企業化した場合には独自の集約的な経営戦略等を採用した展開が可能となるのに対して、中小企業が連携したかたちにおいては各企業のバランスがとられる必要もあり、製品の流通も周辺地域の地縁関係が委ねられる場合も少なくない。一方で、当該地域はDehesaとよばれる地中海性森林を活用したエコツーリズムとイベリコ豚とを組み込んだ観光開発が模索されているのも新たに得られた知見であった。地域ごとに博物館施設が建設されており、観光誘致の要素とすると同時に、伝統的なブタ飼養の資料等の保存が試みられていた。
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