本年度は、研究計画にしたがい、昨年度調査を実施したエストレマドゥーラ地域の継続的な調査を行った。具体的には地域住民のイベリコ豚飼養に関する意識調査に加え、家畜飼養の拠点となっているDehesa(地中海性森林帯)の土地利用ならびにそれに伴う物質文化の形成過程に関わる調査を前年度に継続して行った。イベリコ豚の生産農家ならびに地域型の食肉加工従事者を対象とした聞き取り調査を行った結果、原産地証明(D.O.)がイベリコ豚に関する産地証明を行った結果、ブタの飼養サイクルや飼養方法が異なることが明らかとなった。すなわち、かつては2年以上の飼養期間をおき、秋から冬にかけてのドングリ飼養(Montanera)が2回行われていたのが、現在は規定により1歳獣までの個体でなければ、条件にあわなくなる恐れがあり、早期の出荷に切り替えられるというかたちに変わっていた。また、イベリコ豚の純度、給餌と成長の条件、飼養場所の状態といった諸条件による細分化が進んでおり、副業的にブタを飼養するかたちでは採算がとれにくくなることから、規模を比較的大きく維持できる者がブタ飼養を維持できるような状況であることも明らかとなった。また、ヨーロッパにおける経済危機の影響から、生殖メスを廃畜にするケースも増えており、グローバル市場の中で家畜動物のブランド化が抱える問題点も明らかとなった。これらのブタ飼養の現在的状況に加えて、歴史的な背景を明らかにする調査も継続的に実施した。産地証明制度による経済市場重視の以前の状況について、とくに現在ではほとんど見られないブタの預かり飼養の専業従事者(concejil)の経験者を対象とした聞き取り調査を行った。これはこれまでにも報告例の少ないもので、貴重な歴史民俗資料が得られた。
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