研究の初年度である本年度は、まず必要な資料の収集と並行して全般的な研究動向の把握に努めた。そのうえで、研究計画にもとついて中世におけるユダヤ人迫害のいくつかの事例の検討に取り組んだ。具体的には、第一回十字軍に際する1096年のユダヤ人虐殺と12世紀以降散発した「儀式殺人の告発」を考察の対象に設定した。1096年の事例においては教皇庁の反応は史料上確認できないのに対して、儀式殺人の告発に関しては抑制的な態度を示す傾向がみられたことが明らかとなった。この点については、9月に開催された東京大学グローバルCOEプログラム主催のワークショップ「死者の記憶と表象のポリティクス」において発表した。フランスの人類学者も多く参加したこのワークショップにおいては、迫害を記した年代記史料に表れるレトリックや神話的要素について人類学の立場からの指摘を得、議論を深めることができた。また、冬には、イタリア・ローマのローマ大学やドイツ歴史学研究所において関連資料の調査を実施するとともに、現地研究者と議論を交わした。本年度を通じて、教皇庁の主な所在地であったローマのユダヤ人コミュニティの存在及び教皇庁との関係が本研究にとって重要性を有することが明らかとなった。この点については、次年度の主要な研究課題として取り組む予定である。
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