第二年目の平成21年度は、まず儀式殺人の告発と1096年の虐殺について前年度に国際研究集会で行った口頭発表の原稿を論文としてまとめた。これは同研究集会の報告書『非業の死の記憶』によって公表された。論文とするにあたっては、発表時に欠けていた年代記史料に用いられるレトリックについての考察なども取り入れた。次にこの論文でも言及した、儀式殺人の告発からユダヤ人を保護することを旨とする教皇の一連の勅書「シークット・ユダエイース」のテクスト及び時代的背景の検討に着手した。この勅書は中世において少なからぬ教皇たちが就任直後に繰り返し発してきたことから、教皇庁のユダヤ人認識を理解するのに欠くことができない。この史料はさらに、教皇とローマのユダヤ人コミュニティの関係についても示唆を与えるものである。そのため、教皇勅書と関連して、前年に引き続きローマのユダヤ人コミュニティについての調査を進めた。関連する史料と先行研究を収集し吟味した結果、教皇がローマで執り行う儀礼に関する史料でユダヤ人集団がしばしば言及されていることが明確となった。この儀礼をめぐる問題は最終年度の課題として継続される。9月から10月にかけてはエジプトで開かれた国際シンポジウムに参加し、口頭発表を行った。1月にはイタリアのローマのいくつかの研究機関で調査を行うとともに、現在のユダヤ聖堂もあるローマのユダヤ人地区で宗教施設や関連地点を実際に訪問した。さらにヴァティカン機密文書館ではオリジナル手稿史料の調査も進めた。
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