研究課題
第三年目はまず、前年度に発表した儀式殺人の告発及び1096年の虐殺についての論文を海外の研究者向けにフランス語で改稿した。これは、東京大学人文社会系研究科発行の国際会議報告論集において公表された。そこでは、キリスト教側とユダヤ教側のいずれの史料も検討することによって、一方的な史料への依拠にもとづく歴史像の歪みを補正することを図った。また、記憶構築の問題にも踏み込むとともに、歴史叙述における書き手の立ち位置が有する歴史研究上の重要性についても論じた。次に、前年度からの課題として、中世ローマのユダヤ人に関する調査を継続した。12世紀以降、諸教皇がたびたび発した教勅「Sicut Judaeis」の史料分析を行うとともに、教皇が行う儀礼においてユダヤ人が果たした役割を検討することにより、ローマのユダヤ人と教皇が相互にその存在を承認しあう契機を確認することができた。以上の取り組みにあたっては、ヴァティカン文書館や在ローマの諸研究機関を訪ねて史料調査を実施し、わが国では得られにくい史料を本研究に反映することができた。さらに、十三世紀を中心とする中世教皇庁の組織と制度に関する研究を博士論文として完成させ、本研究の基礎の一部とすることができた。教皇庁がユダヤ人をどのように認識していたかというときに、認識の主体である中世教皇庁の組織や制度の歴史的な展開が及ぼした影響を見過ごすことはできないが、これを当該論文によって補った。教皇庁のユダヤ人に対する認識や態度については、受容か排除かといった単純な色分けをすることも、両義的であったとして曖昧に片づけることも、おそらく適切ではない。古代ユダヤ教に対する態度と中世における同時代のユダヤ人・ユダヤ教に対する態度が異なるなど、一定のコードに従って教皇庁の態度は使い分けられていたとみるべきである。
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La mort collective et le politique-Constructions memorielles et ritualisation-, ed, A.Bouchy et M.Ikezawa, Tokyo : Graduate School of Humanities and Sociology, The University of Tokyo
ページ: 227-243
クリオ
巻: 24号 ページ: 125-127
http://fujisaki.main.jp/