本研究は、考古学的手法により、東北アジア地域の社会文化的動態を鉄器の生産・流通を通じて解明することを目的としている。そのために、中世の極東ロシア・北海道における鉄・鉄器の生産・流通について、実地の資料調査(文献史料を含む)を通じて検討していく。2008年度は交付決定時期が秋であったため、海外調査(ロシアの実地調査)は次年度以降へ回し、日本国内の調査を重点的に行った。1、北海道埋蔵文化財センターや厚真町教育委員会などで、近年増加している、北海道の中世アイヌ文化期の鉄製品の資料調査を行った。その結果、北海道における鉄器の画期は、擦文文化の終焉とされる11〜12世紀ではなく、14世紀であることが判明した。この時期に鉄器の出土量が増加するとともに、鉄器の器種組成が充実する。2、東京大学や中央大学などでロシア語文献の調査を行った。研究協力者を通じて、次年度のロシア調査などに関して海外研究機関と協議を行った。3、モンゴル国アウラガ遺跡から出土した鉄製品の自然科学的分析を行った。その結果、モンゴルの鋳造技術の高さの一端が明らかとなった。次年度以降に計画している極東ロシア地域出土鉄器の分析結果と比較・検討を行う予定である。4、伝統的な製鉄技術を考察するために、日刀保たたらの操業を見学するとともに、製鉄実験に参画した。5、これらの成果の一部は、韓国嶺南大学校での招聘講演会や鉄鋼協会秋季大会で発表した。また、北海道アイヌ文化期の研究成果は、次年度中に学術論文ないしは書籍の形で公表する予定である。
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