本研究は、考古学的手法により、東北アジア地域の社会文化的動態を鉄器の生産・流通を通じて解明することを目的としている。そのために、中世の極東ロシア・北海道における鉄・鉄器の生産・流通について、実地の資料調査(文献史料を含む)を通じて検討していく。また、許可を得た上で自然科学的な分析を行い、考古学的な研究成果と総合的に検討する。昨年度は国内の資料調査・文献調査が主であったが、本年度は海外(モンゴル・ロシア)での資料調査・意見交換を主に行った。 1. モンゴルではチンギス・カンの大オルドであったアウラガ遺跡の出土資料の再調査を行った。アウラガ遺跡では製鉄工程は行われていないこと、素材となる鉄は外部から将来していることや複数の系統(民族差を示す可能性も)の鍛冶技術が共存していることが明らかとなった。 2. ロシア連邦沿海地方では、レニコフ氏が1970年代に調査した城址出土資料を再調査するとともに、新規の調査資料に関する情報提供を受けた。また、現地踏査時に採集したゴゴレフカ城址(仮称)の鉄器・鉄滓の自然科学的分析により、中世段階の城址内における鉄技術の特徴の一端を明らかとした。そしてウラジオストックに所在するロシア科学アカデミー極東支部考古学研究所で開催された研究会で鉄技術の特徴について発表し、活発な意見交換を行った。 3. 北海道では昨年度の研究成果のレヴューを受けるともに、ロシア語文献の調査を行った。 4. 分析手法の選択や分析成果の解釈など討議を重ねた上で、これまでの諸データの比較・検討を進めた。 5. 研究成果の一部は、モンゴル科学アカデミー考古学研究所の紀要などで公表した。
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