本研究の二十年度における本研究の目的および実施計画は以下の通りであった。 旧帝国大学時代に台湾に流出し戦後も現地に遺存した幕末の国学者長沢伴雄(ながさわともお)の膨大な旧蔵書の1点1点の精査を行なう。それを行うことで、幕末の和歌壇の一翼を担った長沢伴雄の伝記を明らかにし、国内の資料によってのみ構築された傾向が否めない国学史を是正し幕末期の京坂の文壇像を再構築することを目的とする。具体的な方法として、台湾大学蔵「長沢文庫」を精査し、識語・書入等をデータベース化する。さらに本居家の蔵書である「本居文庫」(東京大学国文学研究室蔵)を補助資料として据え、その中から長沢伴雄関係の記述を抽出して同時代での長沢伴雄の文事を客観的に捉える。近世を代表するこれらの国学者の文庫調査によって、長沢伴雄を一つの軸とした京坂の和歌・国学壇の諸相を解明することが可能となる。調査によって得られた新見・新資料を報告、論文化し、新しい視座を内外の研究者に公表する。 以上の計画に対して、本年度は7月に長沢伴雄歌文集『絡石の落葉』3巻3冊(国立台湾大学図書館発行)の内、第1巻を刊行し研究の基礎的な資料を整備した。これによって今後の研究は該書を底本とすることとなり研究の進展が期待される。21年度には残りの2冊も刊行されることとなっている。 また11月には和歌山市立博物館特別展「岩瀬広隆-知られざる紀州の大和絵師-」にて当該研究成果を発表する機会を得た。長沢伴雄の活躍した紀州藩のあった和歌山市で研究成果を発表したことによって、地元の郷土史家などからの情報提供もあり大変意義があったと思う。 3月には当該研究について「近世文芸」(日本近世文学会)に投稿した論文が採用されることが決まり、21年7月に刊行される。
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