研究の目的および研究計画 旧帝国大学時代に台湾に流出し戦後も現地に遺存した幕末の国学者長沢伴雄(ながさわともお)の膨大な旧蔵書の1点1点の精査を行なう。それを行うことで、幕末の和歌壇の一翼を担った長沢伴雄の伝記を明らかにし、国内の資料によってのみ構築された傾向が否めない国学史を是正し幕末期の京坂の文壇像を再構築することを目的とする。 具体的な方法として、台湾大学蔵「長沢文庫」を精査し、識語・書入等をデータベース化する。さらに本居家の蔵書である「本居文庫」(東京大学国文学研究室蔵)を補助資料として据え、その中から長沢伴雄関係の記述を抽出して同時代での長沢伴雄の文事を客観的に捉える。近世を代表するこれらの国学者の文庫調査によって、長沢伴雄を一つの軸とした京坂の和歌・国学壇の諸相を解明することが可能となる。調査によって得られた新見・新資料を報告、論文化し、新しい視座を内外の研究者に公表する。また長沢伴雄の歌文集を出版する。 今年度の研究実績 上記の計画に対して、本年度は6月に長沢伴雄歌文集『絡石の落葉』3巻3冊(国立台湾大学図書館発行)の内、第2巻、第3巻を刊行し研究の基礎的な資料を整備した。これによって今後の研究は該書を底本とすることとなり研究の進展が期待される。 7月には「近世文芸」第90号(日本近世文学会)に「近世後期類題和歌集編纂の一齣」と題して当該研究が掲載された。台湾大学図書館に収められる資料を用いて類題和歌集の諸問題について述べた。 また11月には福岡大学で開催された第19回古典研究会にて「近世後期における『枕草子』研究の一齣」と題して当該研究成果を発表する機会を得た。長沢伴雄および加納諸平ら同時代の国学者達が枕草子の研究にしのぎを削っている様子を大阪府立図書館中西文庫蔵書簡を基に発表した。 3月には5月に刊行した『長沢伴雄歌文集絡石の落葉』の出版完成を記念して講演会が開かれ講演を行った。
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