本研究は、旧帝国大学時代に台湾に流出し戦後も現地に遺存した幕末の国学者長沢伴雄(ながさわともお)の膨大な旧蔵書の1点1点の精査を行ない、幕末の和歌壇の一翼を担った長沢伴雄の伝記を明らかにし、国内の資料によってのみ構築された傾向が否めない国学史を是正し幕末期の京坂の文壇像を再構築することを目的とする。 具体的な方法として、台湾大学蔵「長沢文庫」を精査し、識語・書入等をデータベース化する。国学者の文庫調査によって、長沢伴雄を一つの軸とした京坂の和歌・国学壇の諸相を解明することが可能となり、新見・新資料を報告、論文化し、新しい視座を内外の研究者に公表する。 〈研究の成果〉 (1)台湾大学「長沢文庫」485点の全点調査を平成21年度までにほぼ終え、22年度はまず前年度までの調査での項目の記入洩れなどの確認作業を行い完了した。 (2)長沢伴雄の伝記を明らかにするために、天保から弘化年間(1830-1847)の15年にわたる長沢伴雄の自筆日記群について、所蔵する台湾大学図書館と活字化の出版契約を結んだ。これによって22年度より6年計画で日記を全て活字化することになった。 (3)22年度は昨年度に引き続き本居大平の調査に加え、本居内遠の資料137点も視野に入れて調査を行なった。また国立国会図書館所蔵の古典籍、特に同時期の国学者である中島広足(なかじまひろたり)の資料を調査し、長沢伴雄との関連など重層的・補完的な調査を行なった。 (4)台湾大学図書館および国内調査の成果公表のひとつとして、九州大学国語国文学会(6月6日において「近世後期『枕草子』研究一斑」と題して学会発表を行った。
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