本研究は、台湾大学に所蔵される幕末の国学者長沢伴雄(ながさわともお)の旧蔵書を調査し、長沢伴雄の伝記を明らかする。これによって国内の資料によってのみ構築された傾向が否めない国学史を是正し幕末期の京坂の文壇像を再構築することを目的とする。 (1)今年度は上記の目的に関する口頭発表「伴信友と紀州藩の学芸-『史籍年表』再板一件-」を行った(23年5月28日、九州近世文学研究会)。これによって従来紀州藩と伴信友との関係は重要視されていなかったが、近世後期の紀州藩の学芸において伴信友の存在が重視されていた事を指摘し、その仲介役としての長沢伴雄の存在を証明した。 (2)台湾大学「長沢文庫」485点の全点調査を平成22年度までに終えた。今年度はまず前年度に契約を結んだ長澤伴雄自筆目記群の活字化作業に重点を置き、24年3月末の刊行を予定している。この活字化によって長沢伴雄の伝記が明らかとなり、幕末江戸・京坂の文壇を見通すことができると予測される。活字化作業で明らかとなった問題を確認するための台湾大学での現地調査は9月に行った。 (3)本年度は研究の最終年度であるので、これまでの成果をまとめ、一つのまとまりとして公刊する。その成果の一環として『長沢伴雄自筆日記』(全5巻)の刊行が決定した。昨年度に新たに台湾大学と5年契約で出版契約(前掲長澤伴雄自筆日記群活字化)を結んだため、本年度中には成果がまとまらない可能性もあるが、本科研費補助金によってその出版の端緒が開かれ、研究が大いに進展した。第2巻以降は24年度以降順次刊行する予定である。
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