中国の立法の特徴としてこれまで「事実追認型」であることがしばしば指摘されてきた。しかし、研究代表者がこれまで取り組んできた研究により、中国精神損害賠償法の分野では、これとは異なり、裁判実務の蓄積が精神損害賠償法制度を創出してきた、という事実が判明した。そこで、精神損害賠償にかかる制度形成過程の分析をつうじて、中国の立法メカニズムにいかなる変化が生じたのか、これが今後の中国の立法にいかなる影響を与えうるのかを解明することができるのではないかとの着想に至った。よって、本研究では、中国損害賠償法の形成過程の分析を中心に、中国における法制度形成にたいする裁判例の与える影響を析出し、これにより、裁判所による法規範創造機能、法の実現における司法と市民の関係についての解明を試みるものである。 本年度は本研究の初年度として、現有する資料の精査とその補強、現地ヒアリング調査の体制確立に重点を置いて取り組んだ。その成果の一部を、平成21年1月10日に開催された「『体制転換と法』研究会」(於北海道大学)において、「中国の民事訴訟における裁判官の法解釈にかんする一考察-青春損失費請求訴訟をつうじて-」として発表し、現在、論文として発表する準備を行っている。また、辛崇陽教授(中国政法大学法学碩士学院)、其木提副教授(上海交通大学法学院)、解亘副教授(南京大学法学院)、岳衛副教授(同)の各位からいろいろのアドヴァイス・ご教示を賜り、平成20年12月8〜9日に北京市朝陽区人民法院および北京市東城区人民検察院で予備的調査を行うとともに、それをもふまえて、次年度実施予定の現地調査に関するおおよその枠組み・方法論と実施体制を確立する事ができた。
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