中国の立法の特徴としてこれまで「事実追認型」であることがしばしば指摘されてきた。しかし、研究代表者がこれまで取り組んできた研究により、中国精神損害賠償法の分野では、これとは異なり、裁判実務の蓄積が精神損害賠償法制度を創出してきた、という事実が判明した。そこで、精神損害賠償にかかる制度形成過程の分析をつうじて、中国の立法メカニズムにいかなる変化が生じたのか、これが今後の中国の立法にいかなる影響を与えうるのかを解明することができるのではないかとの着想に至った。よって、本研究では、中国損害賠償法の形成過程の分析を中心に、中国における法制度形成にたいする裁判例の与える影響を析出し、これにより、裁判所による法規範創造機能、法の実現における司法と市民の関係についての解明を試みるものである。 本年度は本研究の二年目として、昨年度に引き続き現有する資料の精査とその補強、現地での資料収集および全体像の構築に重点を置いて取り組んだ。その成果の一部を、平成22年2月27日に開催された「『体制転換と法』研究会」(於北海道大学)において、「いのちの値段-中国損害賠償法上の死亡賠償金をめぐって-」として発表し、現在、論文として発表する準備を行っている。なお、昨年度の予備調査を踏まえ、今年度実施する予定であった全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会等における現地調査にっいては、先方との日程調整がつかず、断念せざるを得なかった。次年度の実施については先方の合意を得るとともにおおよその日程も定まっていることから、計画どおりのものが実施できる予定である。
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