古典的な国家の正当化論(政治的責務論)を再検討し、そこで得られた知見を元に、新しい世界秩序像である複合国境論を理論仮説として提示し検討することが、本研究の目的である。この目的のために平成21年度に注力したのは、(1) 利益論(自然状態論)による国家権力正当化論の検討、(2) 政治的責務と遵法義務の異同の検討、(3) 同意論(社会契約論)及び関係的責務論の総括である。 (1) 国家の存在しない自然状態と比して国家がいかなる利益をもたらしているかを検討するため、国家刑罰権を否定的に捉えるリバタリアニズムの刑罰理論を批判的に考察した。その結果得られた知見は、個人権侵害の防止というよりは法的状態の回復のために刑罰が正当化されること、刑罰が過剰でもなく過少でもなく適正に科されるために処罰する責任が各国家に割り当てられること、等である。ここで得られた割当責任論は、グローバル・リスクに対処するための世界秩序構想において、政府ネットワーク論をさらに発展させた多層ネットワーク論として展開できることを確認した。 (2) 政治的責務と遵法義務の関連について検討し、国家に対する責務である政治的責務と法に対する義務である遵法義務が実は厳密に区別されるべきであること、但し遵法義務を果たすために政治的責務が正当化されうること、等を論証した。その一部について、法哲学社会哲学国際学会連合(IVR)世界大会(2009.9北京市)にて、Political Obligationと題するワークショップを企画・開催し、諸外国の研究者と共に報告・討論を行った。 (3) 政治的責務を正当化する議論である同意論(社会契約論)と関係的責務論を批判的に検討する研究をまとめ上げ、公刊した。
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