本研究の目的は、明治23年法律6号裁判所構成法の立法史を明らかにすることであるが、すでに、平成21年度において、法務図書館等に所蔵されている基本資料について、元東京高等裁判所部総括判事である蕪山厳氏とともに、解説付資料集『裁判所構成法』(信山社)を、科研費出版助成を得て2010年2月に刊行した。 本年度は、これを前提として、1.浅古弘ほか編『日本法制史』において、私法制度の展開の概説的叙述を発表した。また、2.「明治期の国税滞納処分制度について」において、司法制度による債権の実現と、行政組織による債権の実現との比較を行った。また、裁判所構成法に関連する境界確定訴訟の管轄問題について、フランスで研究発表を行った。"Aspects historiques du droit des biens")。さらに、裁判所構成法本来の検討として、4.蕪山厳・新井勉・筆者の3名による共著として、『近代日本司法制度史』刊行準備を行った。同書は、本年度中の刊行予定であったが、平成23年3月11日の震災に伴う印刷所等の混乱により刊行が遅れ、平成23年4月15日に刊行された。同書において、裁判所構成法の成立過程について、オットー・ルードルフが重要な役割を果たしたこと、裁判所構成法はドイツ法の影響下にあること、当初において、伊藤博文などの憲法起草グループは裁判所構成法の制定過程とはむしろ疎遠であること、行政裁判の位置づけなどは井上毅の影響を受けたこと、条約改正会議との関連では、裁判所構成法案そのものは日本政府は議論の対象外としたこと、ただし、外国人裁判官制度の導入が検討されたことなどを論じ、さらに、仏独の司法制度との具体的比較が必要なことなどを明らかにした。
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