研究概要 |
研究実施計画に従い,(1)国内でも入手可能な基礎的な資料の解析と,(2)調査対象各国の民法を中心とする法律関係資料の収集に努めた。 (1)については,主としてエジプトおよびイラク民法典の実質的な起草者であるAbd al-Razz q al-Sanh rの研究に基づき,各国の民法の立法史の概要は把握できた。 (2)については,シリア国立図書館,ベイルート・アメリカン大学,大英図書館,フランス国立図書館において,シリア,レバノン,イラク民法典については,かなりの資料を収集できた。多くは民法典注釈または研究書であるが,レバノンについては一定の時期に関する判例資料を入手できた。ただし,これら諸国の委任統治期の法的状況に関する資料は未だ十分ではない。また,リビアにおける資料収集は,入国の困難さと時間的制約のため,今回は見送らざるを得なかった。 この間,本研究における比較考察のスタンダードとなるエジプト民法典に関する論文を作成し,本年度末に発表した。エジプトおよび他の多くのアラブ諸国においては,沿革的な理由からいわゆる「民法典」の領域が財産法に限定され,身分関係法を含まない点を含め,民法秩序の考察の上で重要と思われるエジプト民法典のいくつかの特徴を近代法によるイスラーム法の分断という観点から論じた。また,エジプト以外のアラブ諸国の民法典との関係で重要なオスマン朝の民法典(『マジャッラ』)の翻訳を目的とする研究会におけるコアメンバーとしての活動を通じて,本研究にとっても重要な知見を得た。
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