研究全体の目的は,旧オスマン朝領のアラブ諸国のうち,19世紀初頭から宗主国の法的影響を脱したエジプトと,ぎゃくにオスマン朝消滅後もその法的影響が残ったシリア,イラク,レバノン,リビアの歴史的状況が,それぞれの国における近代民法の制定に与えた影響を明らかにすることである。本研究は,本来平成23年度が最終年度であり,本年度は,繰越金により平成23年度に予定していた海外出張(下記2.参照)を遂行した。以下,平成23年度の研究実施計画に基づき,実施状況を報告する。 1.前年度までに収集した資料の解析は,ほぼ終了した。 2.補足的な資料収集のため,ベイルートのアメリカン大学等への出張を行う予定であったが,1.の結果,あまり必要がないと判断され,また下記3.に述べる理由から,カイロへの出張に変更した。上述のように,この出張は繰越金により本年度に行った。 3.平成22年度の研究活動から,オスマン法のオスマン朝後継諸国の民法典や民法観に対する影響という点については,これまで着目してきた土地法典(1858年)等の不動産関連法のみならず,イスラーム法に基づく債権契約法法典にあたる「マジャッラ」を考察の範囲に加えることにした。ついては平成23年度より,基盤研究(B)「イスラーム法の近代的変容に関する基礎研究:オスマン民法典の総合的研究」(課題番号23330006)におけるマジャッラ翻訳作業に研究分担者として参加しつつ,マジャッラの典拠について調査した。上記カイロ出張においては,その一部の写本調査を行ったほか,エジプト民法典の適用状況に関して,補足的な判例調査を行った。
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