ユースティーニアーヌス帝により集大成されたローマ法によれば、被後見人が後見人に対して有する債権を有効に実現するため、後見人の所有する財産全部につき、黙示の質権ないし抵当権(この2つの表現は、法資料にも明言するように同一物であり、ここでは、便宜のために以下抵当権という)を認めた。この制度は、ヨーロッパ各国に継受されたが、(後見人の任務遂行のあり方と一切関係なく)後見任務を引き受けると同時に負担するとされたこともあって、信用供与を著しく阻害し、後見任務の引きうけを躊躇する傾向に拍車をかけ、その負担の軽減が法律学の大きな課題とされた。この法定抵当権は、(314年のコンスタンティーヌス帝により承認されたのがはじめてであるとする、-例えばM.KASERに代表される-現在の通説とは異なり)、すでに古典期において所謂"被後見人の特権"という形で認めらていたとする見解がより適切というべきである。 古典期にもユ帝にも、後見人の過重負担の(当然予測される)批判が見られない。ところで、最初に認められた法定抵当権である、賃借人の持ち込んだ物に対する抵当権ついて、賃貸人による取り去り以前は、賃借人によるその奴隷の解放が、有効であり、これを、H.WAGNERは、奴隷解放優遇原則の結果と理解するが、総財産に対する抵当権では(個別財産に対する抵当権とはことなり)債権者による掴取以前になされた債務者の処分行為は有効であるという一般原則の表れと解するのが適当であると思われ、、かかる規律は、他の総財産上の法定抵当権にも妥当したものと考えるべきである。実際、それによって始めて理解できる法文がいくつか見 いだされた。このような規律が働いたことが、後見人の負担する法定抵当権に対する批判ないし不満の少ない理由とおもわれる。もっとも、抵当権一般の債権者による実行については、エジプト出土パピルスに伝わる、役人の介入をもって行うものと、西方における実際との相違が推測され、今後究明をしたい。
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