まず、日本の公務員法については、昨年度に引き続き、主として、労働基本権制度改正について検討した。現段階での考察結果は、公務員が全体奉仕者である以上、その勤務条件は一定程度まで法律で定めなければならず、その限りで労働協約締結権が制約されるべきこと、具体的にどこまで法律で定めるべきかは立法裁量に委ねられるが、憲法が勤労者に労働基本権を保障していることを考えれば、公務員制度に関する憲法上の諸原則を具体化するための制度は法律で定めなければならないこと、具体的には、公務就任平等原則、成績主義及び身分保障といった各原則が法律による規律事項であること、そして、法律の範囲内で協約締結権を承認すべきこと、以上のような内容である。かかる見解を基に、国家公務員制度改革推進本部労使関係制度検討委員会の下に設置されたワーキンググループの検討を分析し、また、同ワーキンググループが11月に労使関係検討委員会に提出した「制度骨格に係る論点等に関する選択肢の整理」及び同委員会が12月に公表した報告書「自律的労使関係制度の措置に向けて」の内容を検討した。係る研究の成果は、地方自治研究所公務員制度研究会での報告「新たな公務労使関係制度の下での公務員法--協約事項以外の事項について、法律条例で何を定めるべきか--」で、その一端を公にしている。また、これに関連して、非常勤職員の給与を規律するための法令のあり方を検討した。「非常勤職員報酬等の支給と給与条例主義」平成21年度重要判例解説(ジュリスト1398号)48-49頁がその成果である。 次に、フランスについては、人事評価制度改革の方向付けをした2007年2月2日の法律及び同法に基づく諸法令の分析を継続するとともに、2010年2月にわが国の国会に提出された国家公務員法改正案が、幹部職員の人事弾力化を制度化しようとしているところ、係る弾力化には、現在のようなラシクインポスト方式ではなく、任官補職制度を基盤とするフランス風のランクインパーソン方式が適合的であるとの発想から、フランス官吏法における任官補職制度の歴史的研究を行った。
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