今年度の前半は、5月8日の学会報告の準備およびその報告を原稿化する作業を行った。テーマは「政権交代と憲法」だった。報告依頼を受けた時点では本研究との関係がどの程度密接かわからなかったが、学会報告の重要性を考慮して引き受けた。ところが、研究してみると、フランスの場合、執行権強化の成果・延長として政権交代を実現したという関係になり、十分本研究の枠内にあることがわかった。たしかに、計画では執行権強化の制度的基礎の分析が先行することになっていたので、執行権強化の帰結ともいえる政権交代について研究することは、研究の順序を変更することになり、その分当初予定の執筆作業は遅れることになった。しかし、報告準備を通じて、執行権強化の制度的基礎として新たな要素(核兵器の配備・運用)を発見することもできたので、非常に有意義であった。 9月に上記報告を原稿化した論文を脱稿した後、当初の計画に戻り、執行権強化の制度的基礎としてフランス1958年憲法の制定過程についての研究成果をまとめる作業に着手した。授業や学内業務と並行したため能率的に進めることができなかったが、年度末2011年3月に4回連載計画の論文の第1回分の原稿を脱稿し、編集担当に提出した。この連載第1回では、1946年憲法の全面改正-これが1958年憲法制定につながる-が提起されるまでが分析されている。ここでは、1958年憲法による執行権強化の主たる動機が、1946年憲法における過度の議会優位に対する反発にあり、そうした制度の政治的指導力欠如を原因とする軍事的危機を背景として、執行権強化という方針が政治的支持を集めていったことを明らかにした。 なお、連載論文の執筆は継続して進行しており順次公表して行く予定である。
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