研究概要 |
研究の土台を作る意味で、実現主義に関する検討を行った。具体的な研究としては、所得税法における実現の意味を明らかにするために、シャウプ勧告から始め、それを受けて昭和25年に制定された旧所得税法5条の2(現行59条)を取り上げ、判例と規定の変遷をたどった。その際に、アメリカ法の実現概念に大きな影響を及ぼしたマッコンバー判決(Eisner v.Macomber, 252 U.S.189(1920))およびそれ以降の判例を整理した。暫定的な結論として、わが国にも実現という概念を導入することで、これまで問題となっていた譲渡であるかどうかという議論が整理できる可能性を示唆することできるように思えた。 次に、主としてイギリス法に関する租税回避否認立法のあり方について考察し、以下のことがわかった。オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、南アフリカ、シンガポールなどの国々が、既に一般的租税回避否認規定を持つか、あるいはその導入に向けた議論がなされているにもかかわらず、かつての宗主国であるイギリスにはその動きがほとんどみられない。その理由としては、上記の国々と比べて、格段に判例法の蓄積のあるイギリスとしては、内容が曖昧とならざるを得ない一般的否認規定を作るよりも、判例法によって、ケースバイケースの対応をしていくことの方が、法的安定性の確保に資すると考えていると思われた。 最後に三角合併については、特に事業関連性要件の存在意義が問われるように思えた。合併当事者は、親会社ではなく合併法人たる子会社であるため、被合併法人と親会社にいくら事業関連性があっても、適格とはなりえない。このため外国企業が日本企業を合併により取得するためには、合併法人としての日本法人を設立するだけでなく、当該法人がターゲットである日本法人と相互に関連する事業を営む必要があるが、その根拠が必ずしも明らかでない。適格組織再編成を課税繰延扱いとする基本的な考え方が改めて問われでいる.
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