本研究は、実質的意味における憲法秩序との関連において、第二院の存在意義及び特質を理論的に解明した上、両院関係並びに第二院の組織及び議事手続のあり方を実証的に解明することを目的とする。本年度は、[1]両院制に関する理論及び比較研究、[2]1830年代から1940年代までのイギリス議会における両院関係の歴史的展開に関する実証分析を中心として、研究を遂行した。両院制に関する理論及び比較研究については、比較憲法学及び比較政治学の知見の摂取に努めるとともに、立憲主義における議会の役割論に関する近時の研究成果も参酌して、両院制の存在意義及び特質をめぐる理論及び比較研究の状況を整理、検討した。これに関連して、12月、九州公法判例研究会において、最大判平成18年10月4日(民集60巻8号2696頁)に関する研究報告を行い、参議院選挙区選出議員に係る定数不均衡と投票価値の平等との関係について、参議院の構成のあり方と人口比例原則との関連、第二院の民主的正統性という観点からも検討した。イギリス議会における両院関係の歴史的展開に関する実証分析については、これに不可欠な文献及び第一次資料を収集して、イギリス両院制の制度原則である下院(庶民院)の優越性の形成・確立過程について、19世紀における上院(貴族院)と下院の政治的対立、1911年議会法制定、ソールズベリー慣行の形成、1949年議会法改正を対象として検討した。この一環として、9月、憲法史研究会において、1911年議会法制定に至る憲法史的背景を概観する研究報告を行い、下院の優越性が下院多数派の信任に依拠する内閣による統治の安定装置として形成されたとも解し得ることを指摘した。
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