本研究は、実質的意味における憲法秩序との関連において、第二院の存在意義及び特質を理論的に解明した上、両院関係並びに第二院の組織及び議事手続のあり方を実証的に解明することを目的とする。第一に、本年度においては、[1] 1950~70年代におけるイギリス議会貴族院の構成の変容、[2] 立法における両院関係、[3] 貴族院による政府統制の発展を中心として、これに不可欠な文献及び第一次資料を収集、利用して、研究を遂行した。併せて、3月、イギリスへ調査研究旅行を実施した。この結果、1949年議会法制定による庶民院の優越の確立以後、一代貴族創設に至る民主的基盤強化、労働党内閣と貴族院の対立による改革の紆余曲折、一代貴族創設にともなう議員の専門化並びに立法及び特別委員会活動の活性化などの知見を得た。第二に、8月、憲法理論研究会において、第二院の憲法保障機能に着目した比較憲法分析を行い、貴族院憲法委員会の運用を概観する研究報告を行った。第三に、庶民院の優越の形成過程に係る実証分析のうち、第1次選挙法改革から1911年議会法制定に至る部分の論文を公表した。19世紀後半以降の政府立法及び財政をめぐる庶民院と貴族院の対立構造について、政党組織と責任内閣制の発展を背景として、内閣と一体となった自由党と貴族院において安定多数を占める統一党とが自らの正統性の根拠を国民意思に求めて対立したという側面を析出し、議会法が内閣による統治の安定を確保する手段としての意義をもつことを指摘した。第四に、前年度実施の研究報告を踏まえて、参議院選挙区選出議員に係る定数不均衡と投票価値の平等に関する判例研究を公表した。平成18年最高裁判決までの判例学説を詳細に検討したほか、参議院の構成のあり方という観点から、参議院における定数配分においては人口比例原則が必ずしも妥当しないと解し得ることを指摘した。
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