議会と軍の比較憲法学的考察として、アメリカ憲法における軍と議会の関係を考察した。第1に、憲法上軍の統制はどのような仕組みになっているのかを整理した。憲法は大統領を軍の最高司令官としており、それがいかなる意味であるのかを憲法学的に分析し、判例や学説を検討した。軍事行動の究極的決定を含む完全な指揮命令権を有するとの考えもあるが、民兵召集権を含む憲法上認められた権限も、具体的には制定法に基づくのであり軍権に関して大統領固有の権限は見出しがたいとし、制定法に羈束されると解し、ただ日常的な作戦統制権は議会は関与しえないと結論付けた。第2に、それでは議会はいかなる権限を軍に対してもっているのか。軍の存立にかかわる規則制定権や財政権は憲法の明文で議会が有するとしているから問題ないものの、議会の宣戦権(憲法1条8節11項)の意味は、これまで大統領が戦争をイニシエートしてきたことから問題となる。議会の戦争権限の問題であり、議会優位(Procongress)と大統領優位(Proexecutive)の対立と捉え判例学説を検討し、憲法制定定期から9-11に至るまで戦争権限がどう議論されてきたかの歴史的展開を整理したうえで、現代的課題を考察した。戦争権限は現実には大統領と議会の協働で行使されそれが実務では踏襲されている点を指摘するとともに、戦争権限はアメリカ憲法学の一大争点であることを改めて喚起させるにいたった。
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