本年度は、わが国においてこれまで政策的手段として考える傾向が強かった土地税制の課税繰延べ規定に焦点をあて制度論及び解釈論上の問題について、特にアメリカ連邦所得税制との比較を中心に検討を試みたが、このようなアメリカ法の考察は、今後のわが国の土地税制にとって重要な意義があると考える。というのも、アメリカ連邦所得税制においても我が国の「固定資産の交換の特例」(所法58条)に類する課税繰延べ規定として同種資産の交換の規定(内国歳入法典1031条)が置かれているが、その適用要件が緩やかであることやタックス・プランニングの操作が容易になされることなどが指摘されている。この点については、アメリカの裁判例や通達などを丹念に分析・検討し、問題点を明らかにしたことは今後の土地税制の議論の展開にとって重要な意義があると考えられる。その成果は、「資産の交換・買換えと課税繰延べに関する研究(1)(2・完)-アメリカ連邦所得税制の法的考察-」『一橋法学』(8巻2号、9巻1号)(2009年7月、2010年3月)において発表する機会を得た。また、拓殖大学経営経理研究所研究会(2010年3月)において、「譲渡所得の特例制度と課税繰延べ」という題目で、我が国において平成21年度税制改正において創設された「平成21年及び22年に土地等の先行取得をした場合の譲渡所得の課税の特例」制度の趣旨について明らかにし、投資の継続性という観点から主たる適用要件の問題点を明らかにした。
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