本年度においては、これまで検討を加えてきたアメリカ合衆国の課税繰延べ規定の課税理論や制度を体系的に整理し、我が国の土地税制を比較法の角度から考察することにより、それらが投資の継続性の理論に支えられていること、租税負担軽減として利用される余地がありうることを明らかにした。課税繰延べの濫用による租税回避への対応策として、所得税法に規定する固定資産の交換の特例(所税58条)、ならびに租税特別措置法に規定する特定の事業用資産の買換えの特例(租特法37条)、収用等の課税の特例(租特法33条)及び居住用の土地建物等の買換えの特例(租特法36条2)等の譲渡所得の特例制度を、投資の継続性との関係において同種要件、保有目的要件、交換要件に着目し、適用要件の再検討を試みたことは、今後の我が国の土地税制の展開にとって重要な意義がある。 最後に、本稿の主題である課税繰延べ理論との関連で、平成22年度税制改正においてグループ税制の一環として導入された完全支配関係がある内国法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰延べについて考察し、以上の成果を、拙著『資産の交換・買換えの課税理論』中央経済社(2011年6月下旬刊行予定)』として出版するための作業を行った。
|