本年度は、日本港憲法13条前段の「個人の尊重」等に基づいて、憲法上の「勤労の権利」に関して、全く新しい解釈を提示した。即ち「無償労働と『勤労の権利及び義務』-勤労概念の拡大と『個人の尊重』・『人間の尊厳』-」がそれである。 そこでは、憲法27条1項の「勤労」の概念に、家事労働やボランティアといった無償労働を含めるべきことを明らかにした。その理由はまず、一人の人間が雇用労働のみならず、自営業やボランティア活動、さらには家事に従事したり再び教育を受けたり、失業状態に陥ったり年金受給者となったりする状況を含めて、様々なライフステージ間を自由に移行できるようにすることが、個人の自由を増大させることにつながり、そのためには無償労働を含めて労働概念を統一的に把握するべきことである。また、憲法27条1項は、「勤労」を権利のみならず「義務」と規定しており、無償労働に従事している者も、「勤労の義務」を果たしていると認めることが、個人の生活の多様性を確保することにつながることも挙げられる。 そしてこの勤労概念の拡大によって、28条の「勤労者」に無償労働者も含まれることになり、無償労働者に労働基準法等のみならず、労働団体法の一部も認める余地が生じる。さらには年金受給等において、無償労働を不利に扱わないようにする、憲法上の要請が生じることを明らかにした。
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