本年度は、租税判例等の資料追跡から、我が国における立法資料の重要性をまず確認する作業を行う目的上、有用な裁判例2件にっき判例研究を行い、うち1件は、「速報判例解説法人の詐欺被害による損害賠償請求権の発生に係る益金の計上時期は被害発覚時の事業年度であるとされた事例」『法学セミナー増刊速報判例解説』3号291-294頁(2008年10月)として公刊した。また、英国における租税立法技術として注目されている、principles-based legislation(具体的な法律条文に、立法過程において公開諮問等を通じ利害関係者の意見を踏まえて練られた立法趣旨を条文解釈に際し参照されるべきものとして明記)の動向について論じた英語文献について報告し、その翻訳を公刊した(Adam Blakemore「金融商品を用いた租税回避に係る英国歳入関税庁の諮問文書の外観」租税研究710号168-196頁(2008年12月))。英国では、判例法主義の伝統にかかわらず、米国的な立法趣旨・意図を根拠にする裁判官の広範な裁量を許す租税回避への解釈上の対処ではなく、むしろ予測可能性を担保すべく文言主義的なアプローチが基本的には支持されており、その利点を活かしつつも課税の間隙を埋める工夫として、このような立法が注目されていることが判明した。公開諮問を通じた民主的立法過程の動向と合わせて、さらに掘り下げるべき立法過程条の論点として注目したい。 また、本年度は、経済産業省・国際租税小委員会の委員として、次年度税制改正の各省要望の過程に実際に参画することができた。同委員会が行った外国子会社からの受取配当非課税という、これまでの国際租税法の基本枠組みに影響を及ぼす恒久立法の提案は、殆どそのまま実際に立法化されるに至ったのであり、特に本研究の初年度において、この上なく得難い参与観察的な経験であった。
|