研究概要 |
本年度は、米国租税法の立法過程に接近すべく研究を行う年度であった。この目的のため、特にわが国で近時改正の必要性を巡る議論の盛んな外国子会社合算税制をめぐる米国のSubpart F立法の経緯と仕組みを追跡することで、より具体的な考察を行った。また、国際課税立法に関しては、OECD等の国際機関を通じた国際的な制度の収斂が期待されているところ、今後各国で立法措置が必要となる事業再編に係る移転価格問題に関し、OECDへのわが国経済界の意見提示の過程に関与することで、その実情についての参与観察的な機会を得ることができたことが収穫であった。 米国連邦議会では、通例、下院歳入委員会報告書、上院財政委員会報告書、両院協議会報告書、さらに、両院税制委員会の報告書と成立した法律に係る一般的説明(general expnalation)が参照でき、これら(特に両院税制委員会報告書)は解釈への影響力も大きく、租税法の趣旨解釈を予測可能性を担保する形で支えている。もっとも、委員会報告書には、特定の納税者を救済するべく意図された脚注が付されるなど、特定の納税者の働きかけの成果あるいは特定の納税者への配慮と目しうる歪みが生じうる点の問題が指摘されている。例えば、Hanna, Christopher H., The Magic in the Tax Legislative Process, 59 S.M.U.L. Rev. 649(2006)参照。立法府の民主的関与の利点を基礎としつつ、この種の潜在的な歪みを排除する仕組みを開発することが、容易には両立しがたい課題として浮き彫りになる。
|