本年度の目標の一つは、英国における租税立法過程の動向を追跡することであった。そこで、近時、同国の国際課税の分野での主要課題の1つとなっている国外所得免除方式の恒久的施設への拡張、実体単位のタックスヘイブン対策税制の租税回避防止立法への純化、研究開発拠点を国内に維持する諸提案の動向を詳細に追跡することにより、英国の国際課税立法の制定過程の客観的描写をすることに取り組んだ。英国では、主要な租税立法の改廃に際しては、英国財務省・歳入関税庁の手に成る諮問文書が作成され、これが広く公開されて、国民の意見を募り、法令に反映させる制度が確立している。実際、事業の国外流出を懸念し、これに対抗するために、earn-out chargeと称される、いわゆる所得相応性基準(米国内国歳入法典482条後段に86年改正で導入)に相当する制度の導入を提案したが、納税者(英国の主要企業等)からの、遡及的課税の効果に伴う不確実性への強い懸念が寄せられ、改訂された諮問文書では、earn-out chargeの提案は撤回されて、より予測可能性の高い、タックスヘイブン対策税制による対処へと方向転換を遂げている。このように、英国の公開諮問の制度は、立法過程への国民の参加と民主的統制を強化しており、このような制度を欠く我が国にとって、大変に参考になるものと言える。 特に、我が国において、透明性を欠くのは行政上の準則(命令、通達等)の制定過程であるところ、そこへのかかる公開諮問の制度の導入は、現状を多少なりとも改善するものと期待されるところである。来年度は、米国の制度を参考に、行政上の準則の民主的統制を巡る議論について、掘り下げることを予定している。
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