本年度は、東アジアにおける市場経済化にともなう法的諸問題の1つとして、2008年8月に施行された中国独占禁止法の動向を中心に研究を進めた。9月には中国・天津および北京を訪問し、最高人民法院にて「日本独占禁止法の民事執行の概要」と題する報告等を行ったほか、商務部、国家工商行政管理総局、社会科学院、中国人民大学、対外経済貿易大学等の担当官・専門家に対し聞き取り調査を行った。その調査の成果として、公正取引委員会競争政策研究センター主催の公開セミナー(2008年10月)にて、「中国独占禁止法の執行体制と施行状況」と題し講演し、国際商事法務研究所や公正取引協会にて企業実務家向けに同様の講演を行ったほか(2009年1月)、『公正取引』や『国際商事法務』といった雑誌に論文を公表した(2〜3月)。また、公正取引委員会=独立行政法人国際協力機構(JICA)主催の中国競争当局職員向け技術研修に講師として参加し、社会貢献も行った(2008年11月、2009年2月)。以上により、中国独禁法が三機関により分担される複雑な執行形態をとるほか、その分担執行の結果、実施規定等の起草が大幅に遅れていること、違法行為に対する訴訟や申告の形で私人が同法を活発に用いている状況等を明らかにすることができた。 さらに2009年2月には、ジュネーブ出張を行い、東アジア諸国の新規WTO加盟国(中国、台湾、ベトナム)のジュネーブ代表部、WTO事務局ルール部、開発部、加盟部および上級委員会事務局等を訪問し、これらの国のWTOドーハラウンド交渉および紛争解決手続への参加状況を中心に把握することができた。
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