本年度は、東アジアにおける市場経済化にともなう法的諸問題の中でも、中国独占禁止法の運用動向を中心としつつも、さらに経済体制移行にともなう米中貿易摩擦についても研究を進めた。その成果として、6~7月に『国際商事法務』に中国独占禁止法に関する論文を公表した。8月には、ホーチミン市法科大学国際シンポジウムにおいて、"Subsidies Granted by China and Application of Countervailing Duties : Lessons for Vietnam"と題する講演を行ったほか、公正取引委員会=国際協力機構(JICA)主催の中国競争当局職員向け技術研修に講師として参加し、社会貢献も行った。2010年2月、関西経済法研究会において「中国独占禁止法施行後1年半の運用-企業結合規制事例を中心に-」と題する研究報告を行った。2010年3月、中国・北京を訪問し、国家発展改革委員会、中国政法大学、清華大学、対外経済貿易大学等の担当官・専門家に対し聞き取り調査を行った。 以上により、中国独禁法が企業結合規制において活発に運用されている一方で、施行直後の多くの申告にもかかわらずカルテル及び市場支配的地位の濫用規制において、いまだ事例が一件も公表されていない実態が明らかとなった。企業結合規制審査は1年半程で急速に日欧米のそれとそん色ない水準にまで達しつつあるが、「競争の排除又は制限」という中核的概念が「競争者の排除又は制限」の意味で運用されている事例も見られる、国有企業間の企業結合について実質的に規制の抜け穴が生じている等の課題も指摘できる。また、違法行為に対する民事訴訟においては、2009年末までに原告敗訴判決が数件下され、私人が市場画定や市場支配的地位の立証において困難に直面している現状も明確となった。
|