本研究の4年目である本年度は、昨年度に続いて関連する学説の検討を進めた。冷戦終焉以降、国際社会における武力行使はむしろ増大しており、それらを対象とした関連文献が続々と公刊されてきており、それらは夥しい量に上る。今年度はモノグラフとしてまとめられたものに加え、雑誌論文についても検討を行った。 こうした検討と並行し、武力行使に関連する近時の国際判例の検討を進めた。また、判例の検討の中で、自衛権の必要性および均衡性原則の位置づけについても検討を行った。これらは国際慣習法上認められると一般に位置づけられるものの、そこでの必要性基準は自衛権の発動要件だったのであり、均衡性基準はそれに対して許される措置の限度を示すものであった。そのため、戦間期において戦争違法化との関係で自衛権が論じられるようになると両基準の意義は不明確となった。これに対してオイル・プラットフォーム事件判決(国際司法裁判所(ICJ)、2003年)は、実際にはニカラグア事件(ICJ、1985年)においても示唆されていたところだが、武力攻撃要件が満たされる場合にとられる措置が、当該武力攻撃に対応するのに必要であり、かつ当該武力攻撃に対して均衡のとれたものであることを要求するものとして、両者の関係を整理した。必要性基準を発動要件と位置づけるのではなく、発動要件としての武力攻撃が存在する場合に、それに対する対応の具体的な必要性を求めるものであり、自衛の目的に照らして判断されるものであることが示されている。戦間期以降の自衛権の位置づけの変化に伴い、必要性及び均衝性原則の位置づけを整理したものと言えよう。この点は、別冊ジュリスト『国際法判例百選[第二版]』に反映された。 また、いわゆる「サイバー攻撃」についての、「武力行使概念」との関係についても着手した。
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