「国際法上の旗国主義の例外事由」としての「無国籍船舶」の先例として、本年度は、海賊問題を中心とする研究を行った。その結果、「海賊行為と反乱団体-ソマリア沖「海賊」の法的性質決定の手がかりとして-」『海洋権益の確保に係る国際紛争事例の研究報告書(第1号)』にその成果を見ることができる。 特に本論文は、旗国主義の例外として伝統的に第三国の干渉が認められてきた海賊について、特に反乱団体との関係で、その構成要件該当性が認められるかどうかを検討したものである。具体的には(1)未承認反乱団体の「暴力行為」が、一般的に海賊とみなしうるかという問題に対しては、否定的に回答されることをまず指摘した。次に、(2)未承認反乱団体が本国政府以外の第三国船舶に危害を与えた場合に、当該第三国は干渉しうるかという問題に対しては、干渉できるとする結論に関しては広範な一致が見られたが、しかし、さらに2つの問題が浮上し、まず、(i)干渉権は、被害を被った国のみに認められるのか、それとも、いかなる国にも海賊に対するものとして認められるのかという問題と、次に、(ii)行為の目的・性質により、海賊に該当するかどうかに相違が生じるか、という問題である。結論としては、真正の海賊かどうかについては、行為の性質が反乱に必然的に付随する行為であるか否かを基準とすること等の、日本のみならず世界に通用する内容の論文を作成することができた。 「無国籍船舶」との関係では、海賊取締に関して、旗国の管理責任の不可能性と、海上航行の一般的保護の2つの趣旨があるが、後者の趣旨に重要性があり、この点が明確とされたことが極めて大きい。
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