研究概要 |
平成22年度は、「生物多様性の喪失と犯罪」について調査研究を行った。 まず、生物多様性の宝庫として世界自然遺産に登録されながら、近年その喪失が著しいとして世界危機遺産とされたガラパゴス諸島を訪れ、現状と課題について実地調査した。その研究成果は、平成22年9月にリエージュ(ベルギー)で開催されたヨーロッパ犯罪学会で発表し、諸外国の研究者・実務家等と意見交換した。また、これまでの研究の中間報告として、平成22年4月にサルバドール(ブラジル)で開催された国連犯罪防止会議に研究報告書を提出し、国連公式文書として登録された。 本年度の調査研究によれば、世界の多くの地域で生物の多様性は急速に失われ、過去50年間に急速かつ大規模に生態系を変えてしまった。熱帯林や多くのウェットランド、その他自然の生息・生育地は規模が縮小し、種は自然の摂理によって発生してきた絶滅の標準的な速度の1,000倍の速さで失われようとしている。生物多様性は、人類が全面的に依存している基盤であり、生物が多様な生態系は、必要不可欠な財(食糧、水、繊維、薬)を提供するばかりでなく、病気や土壌の侵食を制御し、大気や水を浄化し、省察を促すなど、かけがえのないサービスを提供する。 また、現在世界中で貧困に苦しんでいる人々が、生物多様性の喪失による悪影響を最も受けることになる。貧困層は、生活に不可欠な要素を生態系に依存しており、苦境の時には生態系に依存することで苦難を乗り越えている。生態系がもたらすサービスが途切れると、これらの貧困層にとってはこれに代わる生活手段がない。生物多様性は人類の生存にとって不可欠であり、すべての人は生物多様性の保全および持続可能な利用から恩恵を受けるという平等の権利を持つ。
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