最判平成19年7月6日(民集61巻5号1769頁)は、被告の建築した建物を注文者から購入した原告が、被告に対し、この建物には瑕疵があり、これによって瑕疵補修費用相当額の損害が生じたとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。本判決は、請負人は、建物の建築に当たり、契約関係にない、当該建物の注文者からその譲渡を受けた者に対する関係でも、その建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当であるとした。本判決の匿名コメントは、この義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、これによって瑕疵所収費用相当額の損害が生じた場合には、請負人は、建物の買主に対し、この損害について不法行為による賠償責任を負うべきであるとした(判時1984号34頁)。 以上の建物の瑕疵による損害(補修費用)は、原告の身体および原告の当該建物以外の所有物に対する物理的な損害が未発生であれば、純粋に経済的な損失と分類される損害である。上記最高裁判決とは異なり、英判例法では、不法行為による賠償責任が否定される損害である。一方で、契約法と不法行為法の競合を、他方で、どのように制定法が本問題に対処しているかを検討したうえで、上記の瑕疵ある建物の類型において、判例法が純粋経済損失について不法行為による賠償責任を否定する理由の究明を試みた。すなわち、契約で免責されえない制定法上の責任が認められていたために、不法行為法上の責任を認める必要がなかったのである。 他方、本判決当時、日本法には特別法がなく、契約で免責されえない不法行為責任を認めざるをえなかった。そのために本判決が出されたものと考えている。ただし、現在では、品確法がある。
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