純粋経済損失は、契約責任と不法行為責任が競合する事例で生じることが多いために、「イギリス法における契約責任と不法行為責任の競合について」検討した。 (1)イギリス法においては、原告が契約違反に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求の両方を主張できる場合、原告はどちらの請求でも自由に選択することができる。これが一般原則である。しかし、この一般原則には、いくつかの留保がある。それらの留保のうちで、とくに重要なものは、請求を自由に選択することが当該の具体的な契約と矛盾する場合には、それをすることができない、というものである。 以上の伝統的な立場は、1985年に、枢密院により否定されかけたが、1994年に、貴族院により肯定された。 枢密院の傍論の立場は、契約関係があれば、契約責任を追及すべきであり、不法行為責任を追及すべきではない、というものである。貴族院の立場は、契約関係があっても、契約責任か不法行為責任のどちらを追及するかについては、原告に選択権がある、というものである。ただし、無制限の選択権を肯定するのではなく、当該契約の当事者が不法行為による救済の制限または排除を合意したとみなされるほどに、不法行為による義務が当該契約と矛盾する場合には、不法行為による救済を選択する余地はない、とする。 (2)責任競合の前提問題として、契約責任と不法行為責任における要件および効果の違いを概観した。 一方で、上記貴族院判決のように、裁判所は、原告に選択権を認め、すなわち、原告に各責任間の要件効果の違いを比べて有利な責任を選ぶ権利を肯定する。他方で、裁判所は、現在の傾向として、契約責任と不法行為責任が競合する場合には、各責任間の要件効果の違いを縮めることにより、原告の選択が結果に影響を及ぼすことのないようにしている。このような判例の傾向も概観した。
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