研究概要 |
CISGが発効し,『債権法改正の基本方針』(以下,「基本方針」という)の公表と法制審議会における債権法改正の審議が始まった本年度は,「基本方針」と関連づけてCISGの全体構造を解明する作業を行った他,国際商取引における《共通私法》の規範内容及び生成過程の分析にも着手した。 前者のうち,第1の課題であった過失責任主義及び履行不能概念の否定のインパクトの解明については,総論的な研究を数点と各論的な研究(瑕疵担保責任の不存在の構造的要因)を1点公刊できたにとどまる。各論的研究として予定していた危険負担に関する研究は,年度内に完成することはできなかった。第2の課題であった過失責任主義の否定に伴う免責法理の構造解明については,CISGと「基本方針」の比較検討を行い,口頭報告を行った。以上に対して,第3の課題であるCISGの解釈論的研究,なかでも,CISGの発効に伴って解明が急がれるその適用範囲の明確化については複数の口頭報告等を行った。また,海外で出版される英文注釈書の執筆,国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)がCISGに関する裁判例等を分析して公刊するDigestの編集委員に就任して活動を開始するなど進展がみられた。第4・第5の課題(翻訳(1)(2))については,CISG-AC意見第7号の翻訳に若干の進展がみられたにとどまる。 後者(《共通私法》の規範内容及び生成過程の分析)に相当する第6の課題であった,CISGとUNIDROIT原則の比較検討は,上記第2の課題とあわせて実施した。法社会学的検討を行う第7の課題については,ICCにおけるIncotermsの改訂過程について若干の聞き取り調査を行った他,ICC日本委員会の仲裁委員会との接触を開始した。さらに,国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の第6作業部会に日本政府代表として継続的に出席する機会を得たことから,UNCITRALにおける共通私法の生成過程を直接に観察することができた。
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