平成20年度においては、第1に成年後見人の身上監護権に対する実務的ニーズの検証作業として、成年後見活動を実施するモデル事業者を対象とした実地調査を行った。具体的には、大都市部におけるモデル事業者として「世田谷区成年後見センター(東京都世田谷区)」、地方都市におけるモデル事業者として「非営利活動法人あさがお(滋賀県大津市)」を選び、訪問調査等を行い、それぞれの所長等から聞き取り調査を行ったほか、後者では成年後見人の利用者宅訪問に同行してフィールドワークを実施した。この調査を通じて、成年後見人の身上監護面での活動に対する非常に強いニーズの存在を再確認できた。第2に理論構築作業の一環として、学外の2つの研究会で研究報告を行った(『成年後見制度における「本人意思の尊重」-日独の制度比較から-』[法政大学自己決定支援研究会]、『成年後見制度による権利擁護機能』[京都大学学術創成研究第6回エンフォースメント部会研究会])。両報告では、現行法下での成年後見人の身上監護活動に焦点を当て、この正当化根拠となる現行法の構造について、民法以外の手続法、行政法規等まで視野を広げて、包括的かつ体系的な分析を行った。この結果、成年後見制度の本質を単なる財産管理制度と捉えるわが国の民法学説上の通説的理解とは異なり、行政法規等による成年後見人の民法外での地位拡張を通じて、現行の成年後見人にも利用者の身上監護面(人格的利益面)について、既に一定の権限が与えられており、事実上、より広義の権利擁護機関として重要な機能を果たしていることが確認できた。第3に、比較法的検討のために、ドイツ法における成年後見人の身上監護権限に関する文献収集(とりわけ親族の医療同意権立法に関する書籍)を広く実施し、かつ、その分析作業を行った。
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